長野県南部飯田市の温泉や宿泊等の観光ガイド-南信州ナビ

TOP > 特集記事 > 自転車フォトエッセイ「丘の上の桜の街で」

特集記事

この記事の内容は2009年2月現在のものです。

自転車フォトエッセイ「丘の上の桜の街で」

1.桜の季節の飯田へ

丘の上の街飯田

ここ数年、春が来るたびに飯田を訪れている。取材だったり、
打ち合わせだったり、まあ理由はいろいろあるのだが、
愉しみにしているもの、見たいものは決まっている。桜だ。

この、丘の上にある旧い街で、四月の何日かを過ごすようになってから、
ようやく私は、桜の花というものに一種の共感をいだくようになった。
一年にほんの十日だけ、その実相を見せる樹の、切なさを知った。
そして、桜の花や樹のありようというのが、その土地の気や、
そこに住む人々の魂の立居振る舞いに似ていることも、知った。

丘の上の街飯田

桜ほど、わかりやすい美しさを備えた樹はあるまい。
散り際の潔さ、暦や季節の巡りとの一致、路傍に立つ佇まい。
だから、ある部分では、この「花」はどうしようもなく俗化している。

飯田の桜を知るまで、都市や街中の桜に目を瞠ることはあっても、
心の奥底が震えるような薄紅色に出会ったことは、なかった。
この街で二度目の春を見た頃、私は不意に、切なくなった。
一年というもののあっけなさと、年をとることの驚き。
それはもちろん自分の感情ではあったけれど、なにやら、
桜の樹の根っこの辺りから湧き上がってきたもののようでもあった。

丘の上の街飯田

わかりやすい桜は、それはそれで良い。
有名な観光地の有名な桜とは、まあそういうものなのかもしれない。
でも私にとっての飯田の桜は、少々違うのだ。

飯田には、宴会花見という習慣がほとんどない。桜の時節、夜の飯田が
冷え込むこともあるが、そればかりではないようだ。
桜の下で、場所争いをしたり、どんちゃん騒ぎをやらかす風習がない。
実際、その下での飲食が禁止されているところもある。

丘の上の街飯田

二度目の春の飯田で、私は、ある初老の女性が、
桜を見るその眼差しを、見た。大宮通りの桜並木だった。
もの静かに、穏やかな笑みをたたえて、
その方は、花を見上げながら、私の傍らを行き過ぎた。

それだけのことではある。が、そこに私は飯田を見た思いがした。
桜の花には、単純な美しさ以外のものも多くある。
それにいずれ気づく人にこそ、この山都の桜の色は深く沁み入るだろう。
歩くのもいいが私は自転車乗りだから、乗ったり、押したりして桜を見る。
まもなくまた、飯田に桜の季節がやってくる。

※地図は飯田市の場所を示しています。

関連地図

一つ前のページへ戻る

特集記事へ戻る

page top